ディレクターの仕事
私は、30年以上にわたってフリーのテレビディレクターをしていますが、そう言うと「ディレクターって何をしてるんですか?」といつも訊かれるので、私の仕事について書いてみたいと思います。
ディレクターといっても、バラエティーやドキュメンタリー、情報番組やニュースなどいろいろとあって、それぞれ違う職種かと思えるくらい内容が違いますが、主に私がやっている、自然番組について書きます。
まず企画をたててテレビ局に売り込みます。場合によっては局やプロダクションの企画を任されることもありますが、私は好きなことをやりたいので、大体いつも自分で企画書を作ります。
企画が通ったらいよいよ仕事(ギャラになるという意味で)の始まりです。
カメラマンや音声などスタッフを手配して(頼まれた企画の場合は既に決まっていることもあります)さらにリサーチを重ねて現場にロケハン(撮影現場の下見と準備)に行きます。
ただ、ものすごい秘境で、行くだけで命がけのようなところはロケハンはせず、そのかわりロケ日数を増やします。
他に、予算の都合で出来ないこともあります。今は、ロケハンなしの番組が多くなりましたが・・・。そういうときは、行ってみたら聞いていた話とぜんぜん違う、どうしよう、なんてこともよくあります。
ロケハンから帰ると取材構成案(こんな番組になりますという完成予想図みたいなもの)を書いて、局のプロデューサーと打ち合わせます。
そして、ロケに出発です。昔はAD(アシスタント・ディレクター)がいていろいろと手伝ってくれましたが、最近予算の都合で現場にADがつくことはほとんどありません。
これは、大きな問題だと思うのですが、ADの仕事とは単なる手伝いではなく、ディレクターになるための訓練でもあるからです。
どこの番組制作会社にもADと呼ばれる者はいますが、現場に行くことも編集に付き合うこともほとんどなく、いくつもの番組を担当させられて忙しく走り回るだけのただの小間使いです。そんな経験しかない者がディレクターになるのだから、良い番組など作れるわけがありません。
ロケから帰ると編集です。昔はビデオテープを一本一本デッキに入れて、ダビングしていましたが、今はパソコンでできるようになったので、かなり早くなりました。
ただ、その分、編集時間とギャラが削られたので、仕事が楽になったわけではありませんが。
番組によっては編集マンというその道のプロが付いて、ディレクターがこういうシーンにしたいと言えば、そのように映像をつないでくれます。しかし、ディレクターが自分で編集しなければならないことも多くなってきました。これも予算の関係です。作業が多くなっても編集時間もギャラも増えないので、これは、かなりブラックです。
編集の後半でプロデューサー試写があり、その意見を入れて修正します。人にもよりますが、プロデューサーは雇用主でもあるので、かなり高圧的に迫ってくることが多いです。
プロデューサーのOKがでたら、素材をスタジオに持ちこんで、さらに高性能なマシーンで色の調整や編集では出来なかった高度な映像処理などをしながらつなぎ直します。
最後に音楽や効果音、ナレーションを入れて出来上がりです。
ナレーションは、構成作家が書く場合もありますが、私は好きなので、編集マンがつないでいる時に後ろで書いています。だから、自分で編集するときは、かなりハードです。
また、NHKでは、コメントチェックでプロデューサーが原稿にたくさんの赤を入れて来ますが、文責がどちらにあるかはグレーゾーンです。
問題があったら責任を取らされるのは、いつもディレクターですが。
私がディレクターになった頃はフリーでもそれなりにキャリアを積んで何とか食べていくことが出来ましたが、今は絶対に無理です。
制作会社に入っても、ほとんどが契約社員で、研修などさらさらないので、ディレクターになれずに業界を去っていく若者がたくさんいます。
昔の日本の会社は、人を育てようとしましたが、今は、そのような会社は少なくなりました。
ビズリーチのCMではありませんが、欲しいのは、即戦力になるスキルを持った人間です。ある意味、欧米化したのかもしれません。
ディレクターになりたいと思っている若い人たちに言いたですが、それならテレビ局に入るのが一番です。人事があるのでディレクターになれるかどうかは分かりませんが、とても高給なので、余裕で食べて行けます。
そうでなければ、そうした学校に行くなりして、キャリアを積んでから来てください。
会社は、決して育ててくれません。自分のスキルは自分で身につける時代です。
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